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ラブ・ノーツとHERB“Ohta-San” OHTAのコラボ映像作品完成!!

ハワイのオアフ島とビッグ・アイランドを舞台に、オール・ハイビジョンで撮影したラブ・ノーツ初の長尺映像作品「アイランド・マジック/ラブ・ノーツ」(2009年1月1日BS日テレで「ラブノーツ・in・ハワイ」として放映)から、ウクレレの神様“オオタ・サン”とのジャズ・セッションとインタビュー・シーンをほぼ余すことなく編集したDVD「Love Notes with Herb Ohta」が完成した。

ラブ・ノーツの作品を昔から聴いて頂いている方はご存知のことと思うが、我々とオータ・サンの付き合いは長い。あるレコード会社の企画でオータ・サンのハワイのバンドに井上真紀が加わって「プア・オレナ」というCDを製作したのだが、その時のレコーディングのディレクションを僕がやったのがきっかけで付き合いが始まったのだ。以来不定期ながらハワイに行く度にオータ・サンを訪ね、セッションを重ねるうちにラブ・ノーツのCDアルバムに加わってもらったり、昨年は僕の初のソロ・アルバム「WAVE」をオータサンとのデュオで作らせてもらった。オータ・サンの魅力は限られた中ではとても語りつくせない。ハワイアンやポップスは勿論だが、バッハのソロ・ウクレレ演奏も有名だし、何といってもビ・バップ・フレーズをあの小さなウクレレから叩き出すジャズ・ウクレレの名人であることは周知の事実だ。しかし、その中でも僕が本当に彼の虜になったのは、クリスタルのように透明でプリミティブな彼のウクレレ独特のサウンドの中に時折みせる「ブルース・フィーリング」のセンスなのだ。このブルース・フィーリングというのは、必ずしもブルーノートといわれるような3度や7度をフラットした音階を使う、ということだけではなくて、むしろジャズにおける感情表現ということだ。マイルズにしろビル・エヴァンスにしろ、モダンジャズの巨人はそれぞれの楽器の固有のブルース・フィーリング=感情表現というものを自分の演奏に明確に提示したイノベイターなのだ。このDVDのセッションでオータ・サンは実にさりげなく最高に美しいウクレレの演奏を聴かせ、まさに彼がその偉大なるイノベーターの一人であることを証明してくれた。また、井上真紀とのロング・インタビューでは普段あまり深い議論を好まず、いつも独特の話法ではぐらかしてしまうオータ・サンには珍しく、ウクレレという楽器でジャズを演奏することの素晴らしさ、人々が音楽をジャンルで分けることの無意味さ、更には音楽家になった経緯も含めた自己のバイオグラフィカルな部分までも言及する。これはまさに井上真紀の広範囲な音楽に関する知識の豊富さと、自然に見えるが実は考え尽くされた彼女のインタビュー対応のなせる業であった。 また、オータ・サンが全曲で使用している楽器について少し触れておこう。オータ・サンがこの作品の中で使用しているウクレレはHanaというメーカーのもので、通常のウクレレの構造とは少し違い、Hana-ラウンドバックという独特のカーブを持つワンピース・ボディが印象的だ。メイド・バイ・コンピュータ的な最近のマスプロ・ウクレレとは対照的に、ムクの硬い木のブロックから職人が一つ一つ手で削り出す手法で、楽器から構造上の無駄なストレスを排除し、ウクレレ本来のピュアな音色を現代に蘇らせたという大変に手間のかかった貴重なウクレレである。Hanaは以前から私自身がその設計に参加して、自分が長年親しんできたオールド・マーティンやVEGAバンジョーの演奏経験・知識、また、トランペットの構造の基本セオリーまでをも反映し、また、何よりもモニターとしてのオータ・サンのアドバイスを設計に活かしながら楽器を進化させてきた。

今回オータ・サンが使用した楽器にも、オータ・サンの奏法に合わせた多くの新アイデアが生かされている。スタジオ収録で使用しているコンサート・サイズのHanaはサウンド・ボードに1枚取りのハワイアン・コアを使い、ボディはソリッド・マホガニーを使用したもので、それに特性の大きく異なる2種類のピックアップが内臓されている。オオタ・サンは弦をストラミングしながら同時にボディを指と爪で叩きパーカッションを奏でる独特の奏法をするのだが、この2系統のPUによって弦とパーカッションのサウンドをセパレートして録音、ブレンドすることの出来る、というかなり画期的な楽器である。
また、カピオラニ公園で生音でソロ演奏する場面で登場するテナー・サイズのHanaは、サウンド・ボードにシルク・オークという美しい木材を使用したプロフェショナル・モデルのプロトタイプ(現在はラブ・ノーツの田辺充邦が所有している)である。「正確な音程こそがウクレレの命」と言い切るオータ・サンの厳しい要求に、気の遠くなる程の時間と手間をかけて見事に応えたHanaの職人にも大きな拍手を送りたい。 Hiro